高松高等裁判所 昭和63年(ネ)11号 判決 1989年11月30日
控訴人(被告)
白川和夫
ほか一名
被控訴人(原告)
住友敏光
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 控訴人らは、各自被控訴人に対し、金六三五万七五九七円及び内金五六五万七五九七円に対する昭和五九年一二月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人のその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その三を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。
三 この判決の主文一の1は、被控訴人において仮に執行することができる。
事実
第一申立て
一 控訴人ら
1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。
第二主張及び証拠
原判決九枚目裏一〇行目の「本件」を「原審・当審」と改めるほか、原判決の事実摘示と同じであるから、それを引用する。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、損害金六三五万七五九七円及び内金五六五万七五九七円に対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり訂正及び補足するほか、原判決の理由一ないし四の判示と同じであるから、それを引用する。
(原判決の訂正及び補足)
1 原判決一〇枚目表四行目、六行目から七行目、一〇行目、同枚目裏末行、一一枚目表初行の各「原告」を「原審における被控訴人の」とそれぞれ改める。
2 原判決一一枚目表七行目の冒頭から一二枚目表九行目の末尾までを左のとおり改める。
「(1) 前掲甲第六号証、成立に争いがない甲第一三ないし一五号証、乙第二号証、当審における証人中野義則の証言及び調査嘱託の結果(第一、二回)、原審における被控訴人及び控訴人中山秀一の各本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。
(イ) 被控訴人(昭和三〇年一月生)は、昭和四八年四月一日に、善通寺第二高等学校定時制四学年に在学のまま三豊地区広域市町村圏振興事務組合(以下「消防組合」という。)に消防職員として採用され、当初から現業部門の実務(被害者や急病人の救援及び火災の消化業務等)に配置されて、本件事故の当日まで、その業務に従事していた。
(ロ) 消防組合では、従前から、現業部門の実務に従事する職員は、その業務遂行の必要上、裸眼の視力が左右両眼とも〇・六以上の者に限られている。被控訴人の視力は事故まで、右条件を具備していた。しかし、事故後は、右眼が失明同様となり視力が失われたため、消防組合において、現業部門の現場実務から外され、現場実務以外の通信業務に専ら従事して現在に至つている。被控訴人が将来、組合の現場実務に従事するとしても、建築基準法上の防災設備の点検事務等を複数の職員で行う場合などに限られる。
(ハ) 被控訴人は、本件事故後、従事する仕事が庁署内での通信業務に限られたのに伴い、従前得られていた夜間特殊業務手当(現場等へ出動した一日につき五二〇円)と機関員手当(一当務につき二〇〇円)が得られなくなつた。
(ニ) 消防組合における職員の職階は、下から上へ順次、消防士、消防副士長、消防長、消防司令補、消防司令、消防司令長となつており、消防司令以上が管理職である。高校を卒業した者が組合に就職してから管理職へ昇進するまでの平均期間は二七年ないし二八年である。しかし、被控訴人は、本件事故による右眼失明という後遺障害があつて、組合の中枢業務(現業部門の実務)に従事できなくなつたため、将来、管理職へ昇進できる見込みはない。管理職員の定年は五七歳である。
(ホ) 被控訴人は、本件事故までに、普通乗用車の運転免許のほか、組合の現業部門の実務遂行上、有用である消防救急隊員適任証、小型船舶四級、潜水士免許、電話交換取扱者認定証、消防用車両機関員の資格を取得していた。しかし、右消防用車両機関員の資格は前記右眼失明に伴つて消滅し、その余の資格のうち電話交換取扱者認定証以外の資格も、事故後は、現業の実務に従事できないため、その特殊技能を発揮できる機会がなくなつた。
(ヘ) 本件事故前の二年間である昭和五七年度と五八年度における被控訴人の消防組合から支給された賃金合計額は、五六五万〇五一七円(五七年度分が二七三万〇七五七円、五八年度分が二九一万九七六〇円、一か年平均額は二八二万五二五八円)であり、組合に昭和四八年四月に就職した高等学校卒業(同年卒業)の職員の右両年度における平均賃金の合計額六三三万七四四七円(昭和五七年度分が三〇二万二一三七円、五八年度分が三三一万五三一〇円、一か年の平均額は三一六万八七二三円)より一か年の平均額で三四万三四六五円少なかつた(右同僚の賃金額より一〇・三八パーセント低い。)。
次に、本件事故から約二年が経過した後の昭和六一年度と六二年度における被控訴人の組合から支給された賃金合計額は七五四万九二五〇円(六一年度分が三六六万一七三五円、六二年度分が三八八万七五一五円。一か年平均額は三七七万四六二五円)であり、右両年度における前と同じ同僚職員(ただし男子職員)の平均賃金合計額八四一万三八六一円(昭和六一年度分が四一五万五九八七円、六二年度分が四二五万七八七四円。一か年の平均額は四二〇万六九三〇円)より一か年の平均額で四三万二三〇五円少なかつた(右同僚の平均賃金額より一〇・二七パーセント低い。)。
以上のとおり認められる。原審における被控訴人の本人尋問の結果中、右認定と牴触する部分は措信し難く、他にこの認定を動かすに足る証拠はない。
(2) 右認定事実に、被控訴人の前記後遺障害の自動車損害賠償保障法上の等級を合わせ考えると、被控訴人の消防組合勤務についての得べかりし利益の喪失率は二割であると認めるのが相当である。」
3 原判決一二枚目表一一行目及び同枚目裏初行の各「原告」を「原審における被控訴人の」とそれぞれ改め、三行目の「(ロ)」の次に「(ただし従前の借地を本件事故後返還したことは証拠上認められず、また農業経営の規模で事故後変更されたのは、玉葱の耕作をやめたことである。)」と、六行目の「いた」の次に「(なお、本件事故後における組合の通信業務従事も隔日勤務である。以上の事実は前掲甲第六号証及び原審における被控訴人の本人尋問の結果を総合して認められる。)」とそれぞれ加える。
4 原判決一二枚目裏一〇行目の「前記」から一三枚目表六行目の末尾までを左のとおり改める。
「 前掲甲第六号証、原審における被控訴人の本人尋問の結果によると、被控訴人は、本件事故から約一か月半後に乗用自動車の運転を再開し、また二か月後非番の日には、自家の農業に従事し、その農耕用機会の運転も再び始めたこと、しかし、右眼失明のため、運転の再開後は、夜間における自動車の運転が困難となつているし、また耕転機や田植機を直線状に運転進行させることも困難となつたことが認められる。他に、右認定を動かすに足る証拠はない。
(4) 以上の事実及び説示のほか、本件事故後、被控訴人方で耕作をやめた玉葱の収益は、それまでの同家の農業収益全体中の五パーセント余であること(この事実は前掲甲第七号証の一及び弁論の全趣旨を総合して認められる。)を合わせ考えると、本件事故による被控訴人の農事作業における得べかりし利益の喪失率は一割であると認められる。」
5 原判決一三枚目裏三行目の「二九六八万九六〇二円」を「一四〇八万五五一六円」と、四行目の「二一四四万二四一五円」を「一二二五万二八〇八円」とそれぞれ改め、五行目の「年収」の次に「、この金額が本件事故前一か年の賃金合計額であることは、前掲甲第六号証及び原審における被控訴人の本人尋問の結果を総合して認められる。」と加え、同行の「〇・三五」を「〇・二〇」と、六行目から七行目の「二一四四万二四一五円」を「一二二五万二八〇八円」と、八行目の「八二四万七一八七円」を「一八三万二七〇八円」と、一〇行目の「〇・四五」を「〇・一〇」と、一一行目の「八二四万七一八七円」を「一八三万二七〇八円」と、一四枚目表三行目の「四〇一二万七六〇五円」を「二四五二万三五九九円」と、五行目の「二一二六万一六〇三円」を「五六五万七五九七円」と、六行目の「二〇〇万円」を「七〇万円」とそれぞれ改め、七行目の「原告代理人」を削除する。
(当裁判所の補足)
以上の説示によると、被控訴人の本訴請求は、控訴人ら各自に対し損害金残額合計六三五万七五九七円及びそのうち弁護士費用以外の損害金五六五万七五九七円に対する損害発生後の昭和五九年一二月六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容すべきであるが、その余の請求は理由がないから棄却すべきである。
二 よつて、原判決は一部失当であるからこれを変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条前段、九二条本文、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 柳澤千昭 滝口功 市村陽典)
(別紙) 農業所得計算書(昭和58年分)
1.米 ・売却額 951,350円
・自家保有米価額(30×20=600kg) 19,365×10=193,650円
(58.10 新訂版交通事故損害賠償必携、資料編資料6-11水稲生産農家の所得、香川県より。)
・生産額合計 1,145,000円
・利益率 67.339÷162.752=0.4137(上記資料より。)
〔所得額〕=1,145,000×0.4137=473,686円
2.麦 ・生産額 144,590円
・利益率 25.150÷65.273=0.3853
(上記図書、資料6-12麦類生産農家の所得より。)
〔所得額〕=144,590×0.3853=55,710円
3.玉葱 ・生産額 215,006円
・利益率 464.472÷554.734=0.8372
(上記図書、資料6-13野菜果実の収益生より。)
〔所得額〕=215,006×0.8372=180,003円
4.にんにく・生産額 263,000円
・利益率 0.6(類似作物玉葱より若干手間がかかる。)
〔所得額〕=263,000×0.6=157,800円
5.葉タバコ・生産額 3,910,545円
・利益率 323.432÷481.105=0.6722
(「昭和58年産農水省生産費調査結果」および日本専売公社「昭和58年産葉たばこ生産費調査結果」より。)
〔所得額〕=3,910,545×0.6722=2,628,668円
6.総所得額(上記1ないし5合計) 3,495,867円